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広島高等裁判所岡山支部 昭和58年(行コ)2号 判決 1984年7月26日

奈良市登美ケ丘2丁目1番29号

控訴人

岡崎八重野

右訴訟代理人弁護士

波多野二三彦

岡山市弓之町6番1号

被控訴人

岡山県岡山地方振興局長

児子昌志

右訴訟代理人弁護士

片山邦宏

右当事者間の不動産取得税賦課処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

"

主文

原判決を取消す。

被控訴人が控訴人に対し、別紙物件目録記載(一)の土地について昭和54年5月11日付でなした不動産取得税の賦課処分のうち昭和55年1月9日付更正処分により取消された残余の税額11万7,960円の、同目録(二)の土地について昭和54年5月11日付でなした不動産取得税の賦課処分のうち昭和55年1月9日付更正処分により取消された残余の税額11万5,590円の、同目録記載(三)の土地について昭和54年5月11日付でなした不動産取得税の賦課処分のうち昭和55年1月9日付更正処分により取消された残余の税額11万5,590円の各処分を、いずれも取消す。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する(但し、「原判決添付第一目録」を本判決添付の物件目録に読み替える。)。

理由

一  請求原因1から4までに記載の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各処分の違法性の有無について判断する。

(一)  成立に争いがない甲第1号証から第3号証まで、第5、第12号証、乙第1、第5号証、証人岡崎哲夫の証言に前記争いない事実と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  第1回遺産分割協議に際して、控訴人ら相続人に、亡諭幸の遺言状(但し、適式な遺言状ではない。)が開被された。それは、相続財産のうち不動産については、岡山市番町所在土地と本件相続財産(分筆前のもの)のうち約50坪は、相続人の岡崎哲夫に、同じくうち30坪は控訴人に、うち25坪は相続人の岡崎美代子、西尾正子に分配する、但し、賃料収入は、控訴人が取得するというものであって、控訴人ら相続人は、亡諭幸の右の遺志に従って遺産中の不動産を分配することに異存はなく、むしろ、右に従って分割することに意見の一致をみた。しかし、右遺志に従って遺産を分割するときは、哲夫の負担すべき相続税額が過大となるため、控訴人ら相続人は、前記遺志に従った各々の取得は、将来の時機に俟つこととして、さしあたっては、番町所在の土地は哲夫が相続するが、本件相続財産については、相続人全員が各自の法定相続分の割合に従って分割相続することとし、第1回遺産分割協議をなし、前記争いない分筆登記を経て、本件各移転登記を経由した。

ところで、右分筆は、本件相続財産を東西に縦割し、かつ、南から別紙物件目録記載(一)、(四)、(二)、(三)の地番を付したもので、右(四)の土地と右(一)、(二)、(三)の土地の地積の比は、3対2としたものであるが、このように分筆し、各々の所有としたのは、控訴人らにおいては、亡諭幸の前記遺志に従った各自の取得(なお、控訴人としては、亡諭幸の遺志に加えて、将来は、自己が取得する分を併わせて、本件相続財産は、その半ばを哲夫に、その余は美代子及び正子に取得させたいとする考えであった。)は、控訴人の取得する土地(本件(四)の土地)を更に分割して哲夫ら他の相続人に取得させる方法によって、これを実現しようとの考えから、将来の再分筆、再取得により哲夫ら相続人が取得する土地が、地形上分断される結果の生じないように配慮したがためであった。

2  ところで、控訴人ら相続人は、右の第1回遺産分割協議においては、控訴人にかかる相続税法上の配偶者控除の利益の活用を考慮していなかったため、相続税の申告に際し、右の分割では控訴人の負担すべき税額が配偶者控除額に遠く及ばず、他の相続人の負担すべき税額が過大となることを知り、かつ右の申告の受付事務を担当した係官から、配偶者控除の利益の活用について示唆教示を受けた。そこで、あらためて、控訴人ら相続人は、右の点を考慮して、本件相続土地のうち、(四)の土地は控訴人の単独所有、(一)から(三)までの土地は控訴人と各々の相続人との共有とする旨の前記争いがない第2回遺産分割協議をなし、本件各更正登記を経由した。なお、右の協議に際しても、本件相続財産は、最終的に、控訴人死亡の際には、亡諭幸の前記の遺志に従って取得することとする旨の従前の合意を再確認し、具体的には、(四)の土地を南側部分と北側部分に約4対1の地積比で再分筆し、(一)の土地の控訴人の持分とこれに接する南側部分を哲夫が、北寄りの残余と(二)、(三)の各土地に対する控訴人の持分を美代子、及び正子が取得し、折半するという方法を採るとする合意がなされた。右の後、第2回遺産分割協議に従って、控訴人ら相続人は相続税の申告をなした。

(二)  前記一説示の争いない事実に前記(一)認定の事実によると、控訴人ら相続人は、先になした第1回遺産分割協議のうち本件相続財産に関する部分を、相続人全員の合意によって解除し、これにより法定相続分に従った割合により控訴人ら相続人全員によって共有するところとなった本件相続財産について、改めて、相続人全員により第2回遺産分割協議のとおり分割協議をなしたものと認めるを相当とする。

右に関し、前記甲第5号証中には、控訴人を除く相続人らは、相続分(第1回遺産分割協議により取得した各土地)のうち、5分の2を控訴人名義に「移転」するとして、あたかも控訴人に持分を譲渡するものであるかの如き文言が用いられているものである。しかし、前記認定の事実と認定に供した証拠によると、控訴人ら相続人らにおいては、控訴人を除く相続人が、本件(一)から(三)までの各土地に対する各々の所有権を、その持分5分の2の限度で控訴人に無償で譲り渡し、即ち、贈与し、控訴人がこれを譲り受けるという意思で、本件第2回遺産分割協議をなしたものとは到底認め難い(むしろ、控訴人ら相続人においては、相続により法定相続分に従って共有取得したとの前提で、本件相続財産を分割し、その一は控訴人の、その余は控訴人とその余の相続人各1名との共有と改める意思であったものと認められるところである。)ことと、前記証人岡崎哲夫の証言と弁論の全趣旨によると、控訴人ら相続人において実質関係に最も適合する正確な用語を撰んだとは解し難いから、甲第5号証の前示記載が前記認定を左右するところではない。のみならず、本件全証拠を検討するも、控訴人主張の事情のほかには、第2回遺産分割協議をなした理由は見出し難く、実質的にも控訴人を除く相続人らにおいて、第1回遺産分割協議によって取得した財産を控訴人に与える意思で、第2回遺産分割協議をなしたとも、また経済的にも、控訴人を除くその余の相続人が本件相続財産に基づく経済的利益を控訴人に与える目的で、第2回遺産分割協議をなしたものとも認め難い(前記のとおり、亡諭幸の遺志では、賃料収入金額は控訴人が取得する、とするものであるところ、前記岡崎哲夫の証言によると、本件相続財産は、相読前より、他に賃貸しており、賃料の取得のほかには、直ちには、現実に収益をもたらすものではない実情にあり、かつ、前記遺志にいう賃料収入は右の賃料収入をいうものであることが明らかである。そして、亡諭幸の遺志どおり控訴人が賃料収入を取得するについては、当初の第1回遺産分割協議当時から終始相続人全員において異存はなく、現実にも、控訴人が取得するとしたものであることは前記認定に供した証拠により明らかであって、この事実からも、第2回遺産分割協議は、控訴人を除くその余の相続人が自己の所有権を一部であれ、控訴人に譲渡する実質ではないといい得るところである。)。そして、他に、控訴人が、第1、第2回遺産分割を経て、本件(一)から(三)までの土地につき持分5分の2を取得したのが、実質上も控訴人において控訴人を除く相続人から持分の譲渡を受けたものとみるを相当とする事情を、認め得る証拠はないし、また、本件のような課税処分若しくは第三者の権利取得以前において、第1回の遺産分割協議を相続人全員が合意解除し改めて第2回遺産分割の協議をすることを不可とする理由も存しないから、第1回遺産分割協議に錯誤が存しなかったことにより、直ちに、第2回遺産分割協議は仮に第1回遺産分割の協議により相続人らが相続によって取得した遺産を相続人各自の合意によりその帰属を変更しようとする新たな法律行為であるとする被控訴人の主張は、前説示の事実関係にある本件においては失当である。

(三)  ところで、地方税法73条の7第1号が相続による不動産の取得を、それが法律上の所有権の移転にあたるものでありながら、非課税としたのは、相続においては、被相続人の死亡の事実によって、相続人は、被相続人に属した一切の権利義務を承継するものとし、この間に形式的には相続人への所有権の移転があるものの、権利の主体については、相続人は、被相続人の有していた法律上の地位を当然に承継するもの、即ち、相続人は、法律上相続財産にかかる権利義務については被相続人と同一主体の関係に立つとされ、この間には、権利の主体に変更がないものとされることに基づくものと解されるところ、前記(二)説示のとおり、控訴人が本件(一)から(三)までの各土地に対する共有持分を取得したのは、法律上も、また実質からも、控訴人を除くその余の相続人から共有持分権の譲渡を受けたものではなく、被相続人である亡諭幸が本件相続財産に対して有していた所有権の一部を、相続を原因として承継したものと解されるものであるから、控訴人の右持分の取得は、「相続による不動産の取得」にあたるものと解するを相当とし、もとよりこのように解したからといって、いわゆる流通税に属する不動産取得税の本質に悖るものでもない。

三  右のとおり、【B】控訴人の本件(一)から(三)までの各土地に対する共有持分権の取得は地方税法73条の7第1号にいう「相続による不動産の取得」にあたるから、これに対しては、不動産取得税を課することができないものであるところ、右にあたらないものとしてなされた本件各課税処分は、いずれも違法というべく、従って右各処分(ただし、昭和55年1月9日付減額更正処分による一部取消後の残余の部分)は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも取消を免れないから、控訴人の本訴請求は、正当として、これを認容すべきところ、これと異なる原判決は失当であって、本件控訴はその理由があるから、原判決を取消し、本件各課税処分(但し、前記のとおり、更正処分による一部取消後の残余の部分)を取消すこととし、訴訟費用につき行訴法7条、民訴法96条、89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長久保武 裁判官 北村恬夫 裁判官 浅田登美子)

物件目録

(一) 岡山市平和町5番121 宅地 77.57m2

(二) 同所         宅地 77.57m2

(三) 同所         宅地 77.57m2

(四) 同所         宅地 116.38m2

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